外に出ると、雪がちらちらと舞い始めていた。
夜空を見上げるとどこまでも暗い空が広がっていた。
冷たい風と雪が、歩いている蕾の頬を撫でる。
上着の袖やマフラーに、小さい雪が付いては溶けて、付いては溶けていくのを繰り返していた。
「私、何やってるんだろう、...。有澤先生、本当は、私のことなんて...。」
ふと、蕾はゆっくり後ろを振り返った。
「(先生が追いかけてきてくれるかも、なんて…そんな訳、ないよね。)」
街灯を照らす薄暗い道が広がっているだけで、
人の気配すらなかった。
少しの淡い期待が雪と共に降り、崩れ落ちていた。
夜空を見上げながら、蕾は駅へと向かった。
夜の駅のホームはがらんとしていて、点滅する蛍光灯だけが薄暗く辺りを照らしている。
冷たいベンチに腰掛けながら、さくらは窓ガラスに映る自分の顔を見つめていた。
化粧もすっかり落ちてしまっているのに気づいて少し悲しくなる。
蕾は何度も、自分のため息が白く空に溶けていくのを見た。
「はぁ……、バカみたい……」
誰にも聞こえないように呟いたその言葉は、ホームに吹き込む冷たい風に乗って消えていく。
あの日の思い出が走馬灯のように蘇る—初めて先生と出会った日のこと。
勤務中のちょっとした会話で笑い合った瞬間。患者さんの前で見せる真摯な表情とは違う、時折見せる優しい微笑み。
誰もいない診察室で、交わした会話。
ー可愛いーーーーー
先生に始めて言われたあの言葉。今ではもしかしたらあれは、私の幻想だったんだろうかと思い切なくなる。
「もう諦めどき、なのかな……」



