部屋を出た後、蕾は廊下で有澤先生とすれ違った。
「……っ」
しかし、師長の言葉が頭から離れず、いつものように声をかけることができなかった。
「桜井さん?」
有澤先生は、蕾の様子がおかしいことに気づいたようだったが、蕾はただ俯いて、早足でその場を通り過ぎた。
有澤先生は、困惑した表情で、蕾の後ろ姿を見送っていた。
二人の間には、突然、目に見えない壁ができあがってしまったかのようだった。
蕾は、このままずっと有澤先生にそっけなくされてしまうのではないか、という不安で胸がいっぱいになった。
有澤先生もまた、蕾の突然の態度に戸惑い、二人の関係がどうなってしまうのか、先行きが見えない状況に、不安を感じ始めていた。
病院の静かな廊下で、二人の心は、突然の距離感に戸惑い、不安を募らせていた。



