診察が終わり、有澤先生は処方箋を蕾に手渡した。
蕾は、いつものように「ありがとうございます」と伝えようとしたが、また掠れた声しか出なかった。
処方箋をもらい、蕾は診察室を出ようとした。
その時、有澤先生が、ふと、蕾の背中に向かって声をかけた。
「桜井さん」
「はい」
蕾は、振り返って、有澤先生を見た。
「僕は、そんな声も結構、好きだけどな。」
有澤先生は、そう言って、いたずらっぽく笑った。
その言葉は、蕾の予想を遥かに超えたものだった。
驚きと、嬉しさと、そして、どうしようもないほどの照れくささが、一気に蕾の全身を駆け巡った。
(え...?)
有澤先生の言葉の意味を、蕾はすぐに理解できなかった。
その言葉は、雷に打たれたような衝撃を蕾に与えた。
そしてその響きが、自分の心に深く、深く染み込んでいくのを感じた。
掠れた声でさえ、彼は「好き」だと言ったのだ。
それは、単なる励ましの言葉なのだろうか。
それとも...。
有澤先生の顔は、それからパソコン画面に向いていたため、どのような表情をしているのか、蕾には見えなかった。



