「記憶喪失ってやつ。だから、自分が何で入院してるのかも、横で母さんがどうして泣きじゃくってるかも分かんなかったんだと思う。それでも、自分が心配かけたってことは理解したみたいでずっと笑顔を絶やさなかった」

 びっくりした、だけじゃない。相川は、5年間ずっとそうやって生きてきたのか?

「そしたら親父が『お前たちから喧嘩をしかけていないのは分かってる。でも、舞希がこのまま中学に進学すれば一番危険なのは舞希だ。何かあってからじゃ遅い。だから、舞希をアメリカに移住させる』って言ったんだ」

「だから、相川はアメリカに……」

「ああ。 舞希はいつだって俺たちのこと“朔兄”“晴兄”って笑顔で寄って来てな。例え、俺と晴樹の頭が金髪になっても、すごく荒れて舞希に怒鳴り散らした次の日でも……。にこにこしながら、俺たちに話しかけてくるような変な子どもだったよ」

 懐かしそうに微笑む朔真さんは兄の顔をしてた。