刺すような風が柔らかく微かに優しさと温かさを含み始めた頃。

 今日――卒業式は、気持ちのいい天気。

 卒業式が始まると、スピーカーからゆったりとした曲と在校生の拍手で卒業生が入場する。

 ………あ、いた。

 面倒くさそうに、不機嫌そうに、そして眠そうに入場する岩佐先輩。

 岩佐先輩から目を離せないのは、金髪で目立つからじゃない。

 千紗さんの読む答辞に涙腺がやられてしまい、卒業するわけでもないのに涙で顔がグシャグシャ。

 無事卒業式は終わり、梨海に連れられあたしと優衣は3年生の教室の近くで仲の良かった先輩との別れを惜しむ。

 周りでは、お互いが号泣し握手や抱擁を交わす姿もある。

 ちらり。
 視界の端っこに、ホントに端っこなんだけど、金髪が見えた。

 やっと諦められる心の準備ができたんだから、なるべくなら、会いたくない。

 夢中で話している梨海と優衣を置いて、玄関へ急ぐ。

 ははっ……。
 ばっかみたい……。

 最後くらい『卒業おめでとうございます』って、笑って言いたいって思ってるのにっ。

 今、会ったら、好きになっちゃうから?

 岩佐先輩に迷惑だって思ってるから?

 …………諦めるのよ、舞希。