「悪かったな。頭、使えねぇヤツで」

「はっ。舞希を振って、何かに巻き込まれて。馬鹿としか言いようがないな。
で、何に巻き込まれてる」

「別に」

「そうだよな。去年、喧嘩したヤツに今さら追われて、しかも逃げてたなんて言えねぇよな、情けなくて」

「何で、知ってんだよ」

 知ってるなら聞くなよ、って叫びてぇくれぇだけど、俺はヒナに適わねぇから、無理。

 それに「啓輔が殴ったヤツ絞めて聞いてきた」って言うくらい、情報収集の仕方が運転と同じく手荒い。

 逃げるのは、今日で最後。

 ヒナも『逃げてた』って言ってる時点で気付いてるみてぇだし、手伝ってもらうか。

「“逃げる”なんて性に合わねぇから止めたんだよ。効率的にさ、やらねぇと」

「頭使うのもケースケには合ってないだろ。で?その計画、俺にもやらせろ。ちょうど、暇だからな」

「仕事は?クビ?」

「敏腕秘書の優秀な俺様が、クビ切られると思ってんの?辞職に決まってんだろ」

 何やらかしたんだよ。

 そんな上からの態度で仕事してれば、いくら敏腕で優秀でも辞職に追い込まれるだろ。

「ケースケ、“辞職”って意味知ってるのか?知らねぇよな。脳ミソ中2くらいで成長終わってるもんな。
“辞職”っていうのは、職を自分からやめるってことなんだよ、覚えとけ。
ほら、俺、アメリカ行くだろ?だから、早めに仕事辞めて日本にいる間、華とゆっくりしようと思ってるわけ」

 ……は?
 「俺、近々、隣町に引っ越しするんだよね」みてぇに、あっさりとすげぇこと言ってんじゃねぇよ!

 この際、“辞職”の意味を俺が知らねぇとか思い込んでたり、脳ミソの成長が中2で止まってるとかなんとなく流してやるから!

「アメリカ行くなんて、俺、知らねぇんだけど?」

「それ、サクにもハルにも言われたんだから、言うなよ」

 せめて、親友には言えよ。

 ってか、俺が二人になんて言われたかなんて知らねぇっつうの!