「それは、舞希のおかげなんですよ?」

「…………は?」

「あの日、舞希は一度だけあたしの前で泣き崩れたんです。
たったの、一度、だけ。
…だから、無理してるんじゃないかと思って、少し話した後すぐに帰ったんです。
普通、帰ったら泣きますよね?大好きな人と別れたんだからっ」

 語尾を強くして俺を睨む。

 睨まれても、俺はどうしようもできねぇんだよ。

 ……できるなら、俺も別れたくなかったんだから、な。

「舞希は、朔真さんに『あたし、岩佐先輩と別れたの。…振ったんだ。だから、先輩は何も悪くないからね?』って、電話したんですよ?!
どういうことだかわかります?!!」

「……はっ!?」

 …………何でっ。

 俺が突き放したんだから、普通、恨むだろ?

 だったら、朔真さんに殴ってもらった方が清々するんじゃねぇのか?!

「きっと、岩佐先輩は朔真さんに殴られる理由がないって考えたんです。
舞希は『嫌われる要素なんてたくさんあったんだから、あたしが悪いの』って……」

「ちょっと待てよっ。悪ぃのは俺だろ?!何で、舞希が悪くなるんだよっ!!」

「そうよ!!舞希は、何も悪くないっ!
岩佐先輩のことを見て、叫んだこともずっと、ずっと後悔して自分を責めてっ……。
連絡取れなくても、自分が悪いんだって言って力なく笑って」

 舞希を巻き込まないために、傷つけたくないがために、連絡しねぇって決めてたけど……。

 俺は、逆に傷つけてたのか?

 叫ばれたことだって自分なりに解釈したし、大して気にすることでもねぇのに、舞希はもっと自分を責めた……?