ドアが閉まった音の余韻が少し残るなか、ほんのり冷たいジュースの缶を握りしめベッドの端に座る。

 ぼーっとしながら携帯を取出し家に電話をした後、電源を切った。

 しん、となった病室で瞼を閉じると、岩佐先輩の優しい声のサウンドがあたしを呼ぶ。

 さっき、岩佐先輩との思い出は復縁した時か吹っ切れた時なんて言ったけど。

 今日、だけは。
 思い出に浸っても良いですか?

 何が合図になったかは、分からない。

 気付いた時には、視界が歪みポタポタと服の上に落ち、そこだけ丸く色が濃くなる。

 笑った顔も怒った顔も、照れた顔も困ってる顔も。

 全部。
 岩佐先輩のそういう表情から何から何まで好き、大好きだった。

 別れた後も、こんなに相手への思いを引きずるなんて初めての経験かも。

 アメリカにいた頃も、年頃の女の子だもん、普通に恋愛はしてたと思う。

 でも、そんなに夢中にはなれなかったのかな?

 ううん、なりたくなかったんだ。