「岩佐先輩っ!!!」

 自動ドアが開き、やっと慣れた消毒の匂いから離れようと思った時。

 名前を呼ばれて立ち止り振り返れば、井上が肩で息をしながら膝に手をついていた。

「……なんだよ」

「帰るんですか?」

「あたりめぇだ」

「何でです?相川さんの病室の前まで来てたのに」

 ちっ。
 コイツ、気付いていやがったか。

 ………俺は、さっき舞希の病室に足を運んでいた。

 でも、中に入ることは出来ず、踵を返して気付かれないように去ったのに。

「それより、その傷……」

「別に、何だっていいだろ。てめぇには関係ねぇよ」

「喧嘩、ですか?」

「関係ねぇって言ってんだろ!!?」

 まだ、病院内にいたことを忘れていてつい、声を荒げてしまった。

 ジロジロと痛い視線に、バツが悪くなり足を動かす。

 やる気のなさそうな自動ドアの音を2回聞いて、外に踏み出した。