オレンジ色の奇跡



「はい。先輩、クリスマスケーキ。ホールごと食べます?」

「食べていいのか?」

「いいですよ。あたしお腹いっぱいだし」

 ケーキとフォークを渡すと、嬉しそうに受け取った。

 一口食べて「うめぇ!」と笑顔で言われれば、作った甲斐があったなと思う。

「口開けろ」

 フォークに乗せた一口分を「ん」と突き出す。

「あれ、言って。あ、れ」

「何、あれって」

「じゃあ、あーって言って?」

「あー?」

「それで、んって言って?」

「………ヤダ」

「ケーチー」

 なんで言ってくれないかなー。『あーん』って聞いてみたいのに。

 ちょっぴり恥ずかしがりながら笑顔で『あーん』って、ありえないか……。

「食わねぇの?」

「お腹いっぱいなんです」

「じゃあ、風呂入る?沸いてるけど」

「あ、はい。入ります」

「長湯すんなよ。ゆでダコになるから」

「なりませんよーだ」

 少しムッとなりながら岩佐先輩を見るとクスクス笑っている。

 そんな岩佐先輩に釣られて笑った後、寝室に着替えを取りに行きお風呂に向かった。