オレンジ色の奇跡



「あ!も、もう、5時ですね!夕飯作りはじめましょか?!」

 動揺のしすぎで口が回らず、標準語ではなくなってしまったが敢えて触れないでいただきたい。

 そんなあたしを見てクスクス笑う岩佐先輩は「あぁ、そうだな」と言いながらあたしに近づいてきた。

「な、んですか?」

 口角をあげ少しだけ歯を見せる。

 真夏、真っ黒に日焼けした少年が虫を持って女の子を追っかけようと企んでいる時みたいな笑顔だ、これは!

 ジリジリと距離を詰める岩佐先輩は、あたしの髪の毛を触った。

「髪、とったんだ」

「え?あと、ついちゃうから」

「てかさ、なにしてんの?」

「なにしてるって……」

「緊張しすぎだろ。まだ、何もしねぇよ」

 岩佐先輩さっき『まだ』って言いましたよね?
 しかも、強調して言わなくても…。

 やっぱりっていうかなんていうか……。

 あたしの頭をポン、と一度撫でてからキッチンに行く岩佐先輩の背中を見つめた。

「こっち来い。メシ作るぞ」

「はい!」

 手首にしていたゴムで髪の毛を結いながらキッチンに向う。