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 踵を返し、背中を向け小走りに去っていく、俺が助けた女。

「なぁ、啓輔。あの子……」

 黒に近い茶色(チョコレートみたいな色)で肩くらいの長さの髪。大人っぽさを持ちながらも、所々にあどけなさを持つ顔つき。

 相川舞希、か。

「あぁ、朔真さんたちの妹だ。今、気付いたのかよ。 名字で気付け、バカ」

「バカって! ……でも。妹だなんて考えてなかったよ」

 踵を返したのと同時に祥也の顔を見れば、驚いたな、と呟いた。

 確かに。特に顔が似てるってわけでもねえし、昔を知らなければ“相川”には気付ねえ。

「昔、“不良のヒーロー”と呼ばれた兄弟の妹、か」

 小さく言ったそれを祥也が拾った。

「舞希ちゃんはそのこと知ってるのかな」

「知ってても知らなくても、あいつは朔真さん達が好きなんだろうな」