「朔兄っ!晴兄っ!おはよっ!」
「「お…はよ」」
部屋から出てきたお兄ちゃん達に声をかければ眠たそうな声が返ってきた。
「…晴樹、なんか今日あるっけ?」
「サク、俺も今聞こうと思ってたんだけどさ……。
………何もないよな?」
「異様に元気だよね、舞希。
…………もしかして」
「え………嘘だろ?
まさかな……」
「何コソコソ言ってるのよ。
朝ごはん出来る前に着替えてきてね?」
「「あぁ…」」
お兄ちゃん達が自分たちの部屋に戻ったのを見て、急に顔が緩み始めた。
「……ふふ」
気を抜けば自然と笑みが零れてしまう。
軽快な音楽が鳴り響いたため視線をまな板から携帯に移す。
スライド式の携帯のディスプレイには、愛しい人の名前が映し出されている。
「もしもし!」
『…よぉ。朝から元気だな』
「だって、今日楽しみだから」
『ただ、隣町に行って買い物するだけじゃねぇか』
「それでも楽しみなんです」
携帯を左手に持ち、右手には魚用の菜箸を握りちょこちょこと焼き加減を見る。
『ふーん。まぁ、舞希が楽しんでくれるなら別にいいけどな』
電話しながらの料理って意外に難しい。
どっちかに集中すればどちらかがおろそかになってしまう。
「そ…ですか?」
ほら、頭では分かっているのに体は言うことを利かない。
今だって岩佐先輩との会話より、魚を優先している。
『あぁ。じゃあ、10時くらいに迎えに行くから準備しとけよ?』
「え?あっ、はい、分かりました。10時ですね…………あっ!!」
『ん?舞希、どうした?』
魚をお皿に移し終わったトコロで右手にあったはずの携帯がするりと消えた。