オレンジ色の奇跡



「全然!具合なんて悪くないよ?心配してくれてありがとう、井上くん」

 不機嫌なあたしにとって、精一杯の笑顔を向け、お礼を言った。

「いやいや。名前覚えていてくれたんだ。相川さんの事だから絶対忘れてるか分かんないかなって思ってたんだけどね?」

 井上くんはニッと白い歯を向けて笑っている。

 ………確か、井上くんって神崎先輩ほどでもないけど、人気があるって梨海が言ってたような。

 いわゆる、隠れファンってやつ?

 それが本当ならば分かる気がする。

 爽やかかつ誰にでも話しかける持ち前の明るさと、男の人に言うのもなんだか気後れするが可愛らしい顔立ち。

 人気がでないほうがおかしいだろう。

「学級委員長じゃなかったら覚えてなかったよ。井上くんだって、よくあたしの名前分かったじゃない」

「ははっ。学級委員長やってて良かったよ。相川さんの名前?
そりゃあ、あの時期に、しかもアメリカから転入してくる人は珍しいっていうより滅多にいないからね」

 乾いた笑い声は、井上くんによく似合うもので、あたしまで笑顔になっていた。

「それもそうね。梨海と優衣がこの学校に居なかったら来てなかったから………」

 本当に………。

 あたしに、梨海と優衣っていう友達がいなかったならあのまま一生アメリカに住んでいただろう。
 二人が居たからこそ、日本に帰ってきたいと思った。