三日月にキスをして

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「ルぅーナ」





「ちょっ、慎(シン)!痛いって」

「俺のルナは無事かぁ〜?!」

「痛いから離れて。マジで」



昼休みが終わる少し前に教室に戻ってきた私に駆け寄り、頬を捏ねくり回すこの人は、相模 慎(サガミ シン)。

中学からの友達だ。

ひりつく頬を抑えながら慎を睨むと、悪びれる様子のない奴はバナナオレを渡してくる。


「ありがと」

「おん」


素直に受け取る私に、慎はニッと笑って、


「で、今日も何もされなかったか?氷室に」


なんて、年上に対する敬意を微塵も感じられない調子でそんなことを言った。



「うん。特に何も」

「そうかそうか」


態とらしく胸を撫で下ろす素振りをする慎は、私が氷室先輩に手を出されるんじゃないかと少なからず心配している。

先輩は友達もいて、男子にも嫌われてないらしいけど、それはあくまで先輩と関わる人の話であって。


やっぱり、先輩と関わりのない人からしてみれば、噂の絶えない先輩は、クズで危険な人という認識みたいだ。