三日月にキスをして

絢瀬(アヤセ)って真面目だなぁ」



ほとんど人が来ないから、返却される本も多くない。

数冊を元の棚に戻す私を横目に、氷室先輩は話しかけてきた。



「委員として、当たり前のことしてるだけです」

「でも俺、去年も今年もずっと図書委員してるけど、毎週毎週きっちり放課後の時間に図書室にいるの絢瀬しか見た事ないよ」



まぁそれもそうだろう。

みんな部活やらバイトやらで忙しそうだし。

ほとんど生徒がやって来ない図書室での委員の仕事なんて、閉館時間に鍵を閉める、これがメインなのだから。



「部活入ってなくて暇だからいいんです」


それに、図書室は静かで落ち着く。

騒がしい教室が嫌いなわけではないけれど、図書室特有の、学校とは異質な静音がとても心地いいのだ。



「先輩の方こそ、なんで毎週いるんですか?」


そう。

私の疑問はそこだ。

後期、毎週木曜日の昼休みと放課後が担当になった氷室先輩は、謎に律儀に毎週ちゃんといる。


遊び人の噂....いや、事実を持つこの人が、なぜ、真面目に委員の仕事にやってくるのか。

来るだけで、仕事してるとこ見たことないけど。


「ん〜......暇だから?」


いや、私に聞かれても知らんがな。

先輩は、座席がクルクル回る椅子に座って、自分もクルクル回り出す。

適当なんだろう。

真面目に聞くだけ無駄だ。



「......とりあえず、もう図書室でみだらな真似はやめてくださいね」

「うんー」

クルクル回りながら、先輩は頷く。

まぁ来週も私は鳥肌が立つんだろうな、と思いながら、私は鞄と図書室の鍵を持った。

18時、もう閉館の時間だ。






「鍵、俺が職員室に返すよ」

「そうですか、どうもです」

「うん」


私から鍵を受け取り、ぽんと頭に触れた先輩は、じゃーねと言って職員室のある方へ歩き出す。



ナチュラルなボディータッチ。

遊び人の名は伊達じゃないなぁ、

なんて、乱された前髪を整えながら、私は下駄箱へと向かった。