三日月にキスをして

***



「相変わらずおっそいなぁ、ルナ」

「.....っうっさ、い」



ゼェハァゼェハァと肩で息をしながら、私は走る。

あと校庭4周もあるのだ。

立ち止まってる慎に構ってる暇は無い。


女子はラインの内側を、男子は外側を走らされる地獄の授業だというのに、飄々と「俺ラスト1周」と笑う慎に荒い息遣いで返事(?)をしながらやはり私は走る。


マラソンとか本当にどうでもいいんだけど。

走りたい人だけ走ればいいじゃん。

なんて悪態を心の中でつきながら、私もようやくあと3周。



ついさっきまで横にいた慎は、気づけばもう座ってる。

さすが体力おばけのバスケットマン。

帰宅部図書委員という肩書きの私とは大違いだ。



来週の水曜日には、全校生徒で1日がかりで行われるマラソン大会が待っている。

仮病しようかな、なんて思ってないよ。
本当に。
うん。
...... 本当に。





そして、残りの3周を走り切った頃、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

鉛のように重い足を引きずりながら、教室へと戻る私の横で、軽い足取りの慎が「次は現代文かー」とつまらなそうに呟いた。



「面白いじゃん、現文」

「体育の後とか1番ねみーよ」



すでに大きな欠伸をかましてる慎のことだから間違いなく居眠りするだろう。

私は体育の何十倍も現代文が好きだから、ちょっとワクワクしていたりする。

たしか、今日から夏目漱石の『こころ』だっけ。