そんなある日、医師の板垣和真先生が、蕾に嫌がらせをしてきた。
精神科病棟の看護師としての経験も浅く、まだ未熟な自分を、彼は見下しているようだった。
「桜井さん。あのカルテ、まだ終わってないのか?君は本当に仕事ができないな」
板垣医師の、嫌味な言葉が蕾の耳に突き刺さる。悔しくて、涙が滲みそうになったが、ぐっとこらえた。
「すみません、もうすぐ終わります。」
その時、有澤先生が、板垣医師の言葉を遮るように、蕾に話しかけた。
「桜井さん、手伝おうか?僕も少し手が空いたんだ」
彼の、さりげない気遣いに、蕾は胸が熱くなった。
有澤先生は、蕾の苦しみを、誰よりも理解してくれているように思えた。
彼の優しさに触れるたび、蕾の心は、ますます有澤先生に惹かれていった。
一方、有澤医師もまた、蕾の懸命な姿や、板垣医師に虐げられても決して折れない健気さに、心を動かされ始めていた。
指輪をしていても、彼女の優しさに触れるたび、彼の心にも、新しい感情が芽生え始めていたのだ。
しかし、それは決して許されることのない、禁断の恋の始まりだった。



