その時、ふと、自分と同じように桜を見上げている人影に気づいた。
背が高く、すらりとした体躯。新しい医師、有澤裕紀(アリサワ ヒロキ)だった。
彼は、ここの病院に赴任してきたばかりで、まだ蕾も十分に話したことはなかったが、その寡黙で知的な雰囲気に、どこか惹かれるものを感じていた。
有澤先生は、蕾の存在に気づいたのか、ゆっくりとこちらを向いた。
その視線は、どこか遠くを見つめているようで、寂しさを湛えているかのように蕾には見えた。
彼は、蕾に気づくと、かすかに会釈をした。蕾も、慌てて会釈を返す。
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