初恋の距離。

 





 窓の外は、しとしとと雨が降っていた。




教室には、私と葵、二人だけ。




静寂を破るのは、時折響く雨音だけだった。




机に突っ伏して、ぼんやりと窓の外を眺めていると、葵が話しかけてきた。





 
 「なんか、落ち着くね、この雨音。」






 
 彼の声は、いつもより少しだけ優しく響いた。






 
 「うん、私も。なんか、昔から雨の音、好きだったんだ。」






 
 「そうなんだ。俺も、雨の日は嫌いじゃないよ。なんか、色んなことを忘れさせてくれる気がする。」








 
 彼の言葉に、私はふと、彼の母親のことを思い出した。


一度だけ、彼がぽつりと話してくれたことがある。




母親が、好きな男の人と一緒に家を出て行ったこと。





その時、彼はどんな気持ちだったのだろう。