初恋の距離。






放課後、帰り道。




葵がまた私に話しかけてきた。






「あ、そういえば、今度の日曜日、澤村さん僕と映画でもどう?」








「えっ?映画?」






「うん。"彼の名は、"ってやつ。澤村さん、ああいうの好きしょ?」







「...うん、好きだけど...。」







 
 彼が私の好きな映画を知っていることに、少し驚いた。



そして、二人で映画を見に行くという誘いに、胸が高鳴った。


でも、やっぱり素直になれない私。








「うーん、でも、日曜日はちょっと...。」








「そっか。残念。」




 
 葵は、失望したような顔をして、私の前から去っていった。





私は、その背中を見送りながら、後悔の念に駆られた。








どうして、私はこんなにも素直になれないんだろう。









 
 彼の優しさが、私の心を優しく包み込む。




そして、その優しさに、私は抗うことができなくなっていた。







彼のことが、好き。








 
 「...やっぱり、行けばよかったかなー。」





 
 一人、呟いた私の耳に、遠くから悟の声が聞こえた気がした。








「大丈夫、きっとまたチャンスはあるさ。」
 
 そんな気がした。