「おい、離せよ!」
すると、どこからともなく現れたのが、あの転校生、七瀬葵だった。
彼はまっすぐな目で私の腕を掴んでいた男子を一瞥し、その腕を力強く払いのけた。
「彼女に触るな。」
その一言に、男子は怯んだのか、舌打ちをして去っていった。
「大丈夫か?」
悟が心配そうに私に声をかける。
その声は、私が想像していたよりもずっと優しかった。
ドキッとしたのは、彼の顔が近かったからだろうか。
それとも、助けてくれたことへの感謝の気持ちだろうか。
「...別に、大丈夫だから。」
素直になれない自分が嫌になる。
本当は、ありがとうって言いたかったのに、冷たい言葉しか出てこなかった。
「そっか。でも、もし何かあったら、いつでも俺に言えよ。俺、こういうの、得意だから。」
彼はそう言って、悪戯っぽく笑った。
その笑顔に、私はまたドキドキしてしまっていた。
なんだか、この転校生には、敵いそうにない、そんな予感がした。



