雨の匂いが、鼻腔をくすぐる。窓の外は、相変わらずの曇り空。
要先輩と付き合って、もう一年になる。
最初の頃は、些細なことでさえ、胸がときめいた。
先輩が私の名前を呼ぶ声、ふとした瞬間に目が合うこと、それが、雨上がりの虹のように、私の日常を彩っていた。
しかし、最近は、その輝きが、少しずつ薄れていくのを感じていた。
先輩は、相変わらず優しい。
でも、その優しさは、もはや、日常の一部となってしまっていた。
まるで、当たり前のようにそこにある、空気のような存在。
「要先輩、今度の週末、空いてますか?」
勇気を出して、私は尋ねた。先輩は、スマホを弄りながら、あっさりと答えた。
「うーん、週末はちょっと予定入ってるんだ。ごめん、美琴。」
「そ、そっか...」
期待していただけに、胸がしゅんとなる。
そんな私に、先輩は「でも、来週なら大丈夫だよ。一緒に出かけよう」と、フォローしてくれた。
その言葉にほっとしたが、私はまた、先輩を好きでいられるのだろうか、と少し不安になった。
雨の日に傘を貸してくれた、あの頃の、情熱的な先輩は、どこへ行ってしまったのだろう。



