「美琴ちゃん、今日さ、放課後空いてる?」






 
 凛が私の席にやってきて、ニヤリと笑いながら話しかけてきた。






その言葉に、クラスの女子たちが「キャー!」と黄色い声をあげる。







私も、普段なら「うん、空いてるよ。」と素直に答えるだろう。









しかし、最近はどうにも、凛の積極的なアプローチに戸惑いを隠せない。







 
 「え、っと...」









 
 言葉に詰まる私を見て、凛はさらに畳み掛けてくる。








 
 「ごめん、要先輩とデート?」





 
 「...別に、約束してるわけじゃないけど...」






 
 「ふーん。じゃあ、俺と映画でもどう? 最新のSFアクション、結構評判いいらしいぜ?」
 








 凛は、私の反応を伺うように、少し首を傾げた。その仕草が、なんだか子供みたいで、つい、クスッと笑ってしまった。










凛の顔が、その瞬間、ほんの少しだけ赤くなったように見えたのは、気のせいだろうか。







 
 「お、笑った。じゃあ、決定ね!」


 
 「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」





 
 私の制止も聞かず、凛は「じゃあ、放課後な!」と、軽やかに私の机を離れていった。







彼の背中を見送りながら、私は、要先輩との関係について、また考え込んでいた。







要先輩と付き合って一年。もちろん、先輩は優しい。






でも、最近は、ただ優しいだけ、という気がしてしまう。



一緒にいても、話題はいつも同じで、会話が途切れると、気まずい沈黙が流れる。







雨の日に傘を貸してくれた、あの頃のドキドキは、もうないのだろうか。