「あの、要先輩...」






 



 私が何かを言おうとした瞬間、先輩は、私の顔を両手で包み込み、そのまま、私の唇に、自身の唇を重ねてきた。








 
 「んっ...!」









 
 予期せぬキスに、私は息をのんだ。






先輩の唇は、思ったよりも柔らかいものだった。







でも、その感触に、私は、先輩への愛情ではなく、強い羞恥心を感じてしまったのだ。









なんだか、体の芯まで見透かされているような、そんな感覚。











私、先輩のこと、ちゃんと好き、だよ...ね?
 








 「...ご、ごめんなさい!」












 
 私は、顔を真っ赤にして、先輩から顔を背け、部屋から飛び出してしまった。












残されたのは、呆然とした様子の先輩と、重苦しい沈黙。






 
 「美琴...!」











 
 先輩の呼び声も、もう耳には届かなかった。





外は、いつの間にか雨が降り始めていた。






先輩との関係は、この雨のように、さらに淀んでいくのだろうか。




それとも、この雨が、私を新しい場所へと洗い流してくれるのだろうか。





凛の顔が、雨粒のように、私の脳裏に浮かんだ。







彼の、あの、屈託のない笑顔が。