雨は、世界から色を奪い去る。
アスファルトを叩く雨音だけが、ぼやけた視界に響いていた。
高校入学式のあの日も、こんな雨だった。
「ねぇ、君。傘、持ってないの?」
見知らぬ先輩の声に、如月 美琴は顔を上げた。
傘も持たずに校門で立ち尽くす私に、彼は優しく微笑みかけた。
3年の一条 要先輩。
サッカー部のキャプテンで、成績も優秀。校内で有名だ。
学校中の女子の憧れの的。
そんな先輩が、私に傘を差し出してくれたのだ。
「あ、あの......ありがとうございます。」
私の返事に、先輩は「どういたしまして」と、さらに柔らかく笑った。
その日から、私の心には、先輩という名の雨宿りができた。
それから一年。
私たちは付き合うことになったけれど、関係はあの雨の日から、ほとんど進展していない。
手をつなぐことさえ、まだ少し照れてしまう。
先輩の優しさが心地よい反面、もっと、もっと、と欲張りな自分が顔を出す。
このまま、雨宿りを続けるだけでいいのだろうか。



