小さな手のひらが温かく私の顔に触れた。
『自分も悪かったって思える人は、優しい人なの。だけど優しい人ほど、心の中の本音を内側へと隠して固めてしまうわ』
___それってなんだか、少しだけオムライスみたいだと思わない?
女の子がくすくすと笑う。
それを横目に私は泣き止み、鼻をすすった。
伸ばした手で紙ナプキンを摑み、ずびずびと鼻をかむ。
そして少しの間があいて、女の子が私の肩からぴょんっと降り、テーブルへと着地してみせた。
そしてその場で、くるりと。
私の目の前で一回転してから着ていたドレスの両端を指先でつまんで一礼する。
『心の開き方は簡単。ほんの少しだけ勇気を出して、切れ込みをいれるの…そうすれば自然と心の声が広がっていくわ』
「…そうしたら、何か変わる…?」
『変わらなくてもいいの。心の中身を、外側に溢れ出させることが大事なのよ』
それが一番難しいことを、私は知っていた。
前の学校で、初めていじめの存在を告白したときのことを思い出す。
でも、だけど。
あのとき、私は心に切れ込みを入れることができたから、助けを求められた。
なんで忘れてたんだろう。
先生と両親に、不器用な“助けて”を言えたから、私は壊れずに今日まで生きてこられたんだ。
「…私、また、言えるかな」
『大丈夫、あなたなら、きっとね』
「ふふっ…、根拠は?」
『うーん、強いて言うなら…そうね』
女の子は人差し指を口元に寄せながら、小さく首を傾けた。
『今日ここで、お腹いっぱい“私”を食べて、パワーをつけて帰るから』
「なにそれ」
ぱちんとウィンクした女の子に、私は赤いままの目を細めて笑う。
皿に盛られたオムライスは、すっかり冷えてしまっていた。



