そんな想像もしていなかった問いかけに「は?」という間抜けな声が出た。
食事…それも一週間前のなんて、いちいち覚えていない。
女の子は私の左手の甲をなでながらこちらを見つめた。
『ね、覚えてないでしょう?他人の死もそうよ。一週間もすれば新しい記憶で上書きされて、いずれ埋もれていくわ』
女の子の言葉に私は黙り込む。
そう言われてしまうと、確かにそうかもしれない。
私が命を落としても、あいつらはきっと変わらないだろう。
「…でも、もう遺書も書いてきちゃったし」
私がそう言うなり、女の子が笑った。
『なら、それをまずはご両親に見せるのはどうかしら。学校の先生でもいいけれど』
「えっ…や、嫌だよそんなの!」
『それはなぜ?だって菜月ちゃん、あなたは死にたいって思うほど、今、苦しんでいるのでしょう?』
不思議そうに女の子が問いかける。
そんなの決まってる。
いじめられてるなんて、そんなこと言ったらお父さんもお母さんも…また心配させちゃう。
学校の先生は…まだよく分からないけど…転校早々で面倒くさい生徒って思われたりするかも。
雑に解決しようとされたら、もっといじめも酷くなるだろうし。
それは、困る。
私の心を知ってか知らずか、女の子が口を開いた。
『いいじゃない。巻き込んでしまいましょうよ。辛いことってね、分け合うものよ。そしてそれは明かさなければ始まらないわ』
___自分の気持ちを、言葉で最後に伝えたのはいつ?
女の子の言葉を聞きながら必死に考える。
…いつからだったかな。
自分の言葉をのみ込んで、誰にも見せなくなったのは。
いじめていた子達には何を言ってもムダだろうって決めつけて、ただ黙って我慢しながら毎日を過ごして。
両親には“学校、楽しいよ”なんて嘘言いながら笑顔を作って安心させようとして。
前の学校の先生が何もしてくれなかったからって、今の学校の先生達のことも頼ろうともせず遠ざけて。
…あれ?
一番最低なのって私なんじゃないかな…?
自分の今の現状を、知ってもらおうともせずに、ただ一方的に、自己完結して終わらせようとした。
「…どうしよう、全部、私が悪いのかもしれない」
ぽたり。
私の目から涙が流れた。
拭っても拭っても、涙がテーブルの上に溢れ、小さな水たまりを作っていく。
女の子が、左手から肩に上ってきて、そのまま私の目元をなでた。
肩にちょこんと座り、話し始める。
『ねえ、聞いて。あなたは何も悪くないわ』



