久しぶりに食べたオムライスは、空腹であることも含めて美味しかった。

二口目、三口目を続けざまに口へと入れる。

「んぐっ…!」

喉につめそうになったけど、すんでのところで飲み込んだ。

『大丈夫?よく食べてくれるのは嬉しいけれど、よく噛んで食べてね』

「…う、うん…」

少し恥ずかしいな…。
口元についたケチャップをテーブルに置かれていた紙ナプキンで拭う。

『ねえ、あなたのお名前を聞いてもいいかしら?』

「え…あ、私は、菜月です…」

『菜月ちゃん、私、あなたのことが聞きたいわ。教えてちょうだい?』

女の子は皿から降りて、私の左手にそっと触れる。
その目はキラキラと輝いていて、私はただ頷くことしかできなかった。

『この町に来たのはいつ?どこから来たの?』

「二ヶ月前…東京から」

『引っ越しの理由は?』

「…前の学校でもいじめられてて、お母さんの実家があるこの町に来たの」

『前の学校“でも”…じゃあ、今の学校でも?』

「……うん……」

小さく頷くと、女の子からの質問が途切れて沈黙が訪れる。
会話ってこういうとき、気まずくて嫌だな。
何かを言おうと唇を動かした、そのとき。
女の子がこてんと首をかしげた。

『だから、死のうとしているの?』

___目を、見開く。
なんで、分かったの。
震える唇でそう聞けば、『なんとなく、そんな気がして』と返ってきた。
その通りだった。
私はいじめを理由に今日、死のうとしている。

『死んだら、後悔しない?』

女の子が呟く。
その言葉に私はハッキリとこう返した。

「後悔するのは、あいつらの方だよ」

今度は女の子が目をパチパチとまばたきさせる。

「私が死んで、それから後悔しながら、その後の人生、苦しんで生きていけばいい」

それが素直な私の本音だった。
出かける前に部屋の机に置いてきた遺書を思い出す。
中には私をいじめたやつらの名前と、行われたいじめの内容がびっしりと書いてある。
右手に持ったままのスプーンを強く握りしめた。

『人間って不思議な理由で死のうとするのね』

女の子の言葉に眉をひそめる。
オムライスに人の気持ちのなにが分かるの。
私の様子に怯む素振りも見せず、女の子はなおも言葉を続けた。

『だってそうでしょう?あなたは一週間前に食べた食事がなんだったか、覚えているのかしら?』