「ありがとうございました…」

いつものように深く頭を下げてお客さんの背を見送る。
いつもと違うことといえば…隣に兄がいないことだろうか。
接客は兄にほぼ任せているため、自分一人で業務が勤まるか心配だったが…なんとか終わってよかった。

「………」

静かな店内に外を走る車のエンジン音が響く。
ここは小さな店なのに、一人だと広く感じてどこか寂しさを覚えた。

「片づけるか…」

呟いて店の奥へと進む。
ふと、棚に置いていた招待状が床に落ちた。
カサリと音をたてたそれを拾い上げる。

___ご来店を心からお待ちしています。

それだけ書かれた住所も記載されていない招待状。
それはつまり、最初からこちらを迎える気はないということだった。

「…あいつが、店を持ったのが本当なら…」

その店に訪れるお客さんは___。

そこまで考えて首を振る。
そして招待状を元の場所に戻して、片づけへと戻っていった。

兄はまだ帰ってこない。