不思議な町の喫茶店


プルルルル…。

プルルルル…。


スマホから呼び出し音が聞こえている。
よかった、連絡先は変わっていないみたい。
自室に置かれた白くて丸いテーブルの上、電話番号の書かれた古い紙が静かに私を見守っていた。

“いつかそう言うと思ってたから”

そう言ってこの紙を渡してくれたママは、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
10年一人で育ててきた娘が、音沙汰もなかった父親に会いたいなんて言ったんだから、当たり前だろう。
正直、断られても仕方ないと思っていたのに。
それなのにまさか、こんなにあっさりとパパのこと教えてくれるなんて。

___最初に、なんて言えばいいんだろう。

ぐるぐると頭が回転する。
パパ活していたときはこんなふうに悩むことなかったのに。
本当のパパ相手には、何を言えばいいか分からない。

『はい、もしもし…?』

ついに繋がったスマホから、懐かしいパパの声が聞こえた。
記憶の中のそれより歳をとったような、どこかかすれた声。

「…あっ…えっと、私…木原…このみです…」

___なんだよ、“です”って。

緊張丸出しじゃん、恥ずかしくない?
もうちょっと軽く言えばよかったかも……。
心臓がバクバクするのを感じながらパパの答えを待つ。
電話口から笑っているような優しい声が聞こえて、目を丸くした。

『このみかぁ、久しぶりだな…元気だったか?』

その言葉をきっかけに、少しずつ緊張もほぐれて私は、パパと会う約束を取り付けた。

「いっぱい奢ってもらうから、覚悟しててよ!」

『はは、お手柔らかに頼むよ』

私がパパ活をすることは、もう、ない。
満ち足りた心で、そんなことを考えていた。