スマホが鳴ったのは約束の30分前のことだった。

「もしもーし、どうしたの?…え、急用?」

聞こえてくるかすれた声の弁明を耳にしながら、私は染められた髪の毛先をいじりだす。
昔からのクセだ。
機嫌が悪い方に傾くと、ついやってしまう。

「…うん、いーよいーよ、気にしないでー」

じゃあね、とだけ告げて通話を切る。
同じ人にドタキャンされたの二回目だし、この人とはもう“バイバイ”かな。

「さて、どうしよっかな…」

本当ならカフェでケーキを奢ってもらうつもりだった。
予定していたアテが外れて、フラフラ適当に歩いていると、落ち着いた店を見つけて呟く。

「ここでいっかぁ、何か甘いのあるかなー」

ため息を吐きながらダークブラウンのドアを開いた。