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「…お待たせいたしました、ナポリタンです」
白い皿に盛られて運ばれてきたそれに、私は目を輝かせ、ごくりとツバを飲み込んだ。
「ごゆっくりどうぞ…」
頭を下げてその場から去って行く物静かな店員。
私はその姿が見えなくなるまで待ち、手にフォークを持った。
そして、ほかほかと湯気を放つナポリタンにフォークを差しこむ。
くるくると麺を巻き、口へと運んで頬張った。
「んー、おいひぃ…!」
これだ…!私が食べたかった味…!
雛子と話題のカフェに遊びに行くことが決まってから一週間。
食べたくてたまらなかった味を、今、目いっぱい堪能している。
口の中で咀嚼して、ごくりと幸せの味を胃に流しこむ。
「はぁ…このお店、他にお客さんいなくてよかった…こんなところ見せられないもんね」
紙ナプキンで口元のケチャップを拭きながら呟く。
『なによ、人前でアタシを頼むと恥ずかしいってワケ?』
「え?」
下の方から声がして、視線を向ける。
ナポリタンの皿のふちで、腕を組み仁王立ちをする小さな女の子がいた。
オレンジや緑、赤で色づけされた目立つ頭に、赤のTシャツ、緑の半ズボンを着ているその子の強気な目と視線が合う。
私は数回まばたきをしてから理解した。
「びっくりした…このお店“魔法”がかかってるんだ」
私の住むこの町では、不思議なことがいたるところで起きる。
それがいつからか“魔法”と呼ばれて、浸透していったって、この前歴史の授業で習ったっけ。
とにかく、お料理の妖精が現れるくらい、今さら珍しいことではなかった。
この町に住んでいれば、特に。



