「こんなところにお店あったっけ…?」

その場所で立ち止まったのはほんの気まぐれだった。
目の前には落ち着いたブラウンでまとめられたシックな装いの喫茶店。
看板には『喫茶解結(ほどきむすび)』と書かれている。
目的地に向かう前に、食事を済ませるのも悪くないな、なんて思い、私はダークブラウンのドアを手前に引いた。
どうせなら一番高いものを頼んでみようかな。
これが人生最後の食事になるかもしれないのだから。
カランコロン、とドアについたベルが来客を知らせる。

『いらっしゃいませ』

店に入るなりこちらに向かって深々と頭を下げる二人の店員。
上げられた顔にギョッと目を丸くした。
この人達、双子だ。
しかもそっくり…これって一卵性双生児ってやつかな。

「お好きなお席にどうぞ」

目元にホクロのある店員の片方が、にこやかに笑みを浮かべながらそう言った。
私は小さく頭を下げて、店の奥へ進む。
店内にはクラシックのようにゆったりとした音楽が流れていて、どこか懐かしい雰囲気がただよっている。
一番奥にある席に腰かけ、隣の席に鞄を置く。

「…これ、メニュー」

「あ…どうも…」

口元にホクロのあるもう片方の店員からメニューを受け取る。

「ごゆっくりどうぞ…」

そう言いながら気怠そうに去って行く。
さっきの店員と比べて、こちらの店員はだいぶ無愛想な印象を受けた。
顔はそっくりでも性格は違うらしい。

「さてと…何にしようかな」

呟きながら受け取ったばかりのメニューを開いたとき、私は首をかしげた。