そこには暴走する馬車が目に入ったのだ。急いで部下から馬を借り馬車の方向へ走り出した。追いかけても追い付けない速さだ。もしものことがあれば取り返しがつかないとまで思わせる。
何としてもマリーを救いたいという一心で、馬を走らせていた。焦りは禁物だと思いながらも焦らずにはいられないのだ。もう少しの所なのに、あともう少し、手を伸ばせば届きそうだが、追い付けずにいたのだ。
明け方になり薄明かりが空から射してきた。馬車の中で気を失っていたマリーが目を覚ました。馬車の中にいることが分かって、慌てて辺りを見渡したが一人だった。
子供の姿になっていたので、誰もいないことに安堵していた。早速、ドレス下のペチコートに忍ばせていた子供用の服を取り出して着替えた。着替え終わると馬車の揺れが異常なことに気付いた。
道が広くなっていたにもかかわらず、馬が大きく左右に馬体を揺らして走っていたのだ。馭者台が見える小窓が開いていた。恐々、ゆっくりと覗いた。誰もいないことが分かり、ここから出ないと危険だと感じた。
急いで馬車の扉を開けて、そこから飛び降りようとした。でも早い速度で怖くて降りられなかったのだ。飛び降りても、馬車の中にいても、どちらにしても危険だ。マリーはどうしていいか分からないので、取りあえず助けを呼んでみた。
「誰か助けて!」
大声で叫ぶことしかできないでいた。そんな時ダニエルの顔が浮かんだ。死んでしまうかもしれないのなら、もう一度だけダニエルに会いたいと思っていたのだ。

