化粧の後はドレス選びだ。ダニエルが前もって業者に何着も用意してもらって、その中から購入することになっている。業者はダニエルが購入すると聞いていたので高額なドレスばかりを用意していた。
部屋に運び込まれたドレスは、この場所が高級ブッテックの店のように多くの種類が何十着もあった。マリーはそれを見て悩んだ顔をした。
「どうした?新しいドレスを着るというのに嬉しくはないのか?」
「嬉しいです。でもドレスを選んだことがないし、服は水色の菓子作りの作業をするための物しか着ないんです。普段ドレスに関心を示したことがなくて、どうしたらいいのか・・・そうだ。ダニエル様が選んでください」
「え、私の好みでいいのか?」
「勿論です。前に夜会に行った時、ドレスをプレゼントしてくれたじゃないですか。ダニエル様だったらセンスがいいので、少しでも私が魅力的に見えるように選んでください」
「では喜んで選ぼう」
「お願いします」
ダニエルは何着も吟味して嬉しそうに選んだ。15着を選んで満足したらしく業者に購入するので置いて行けと伝え、他のドレスと一緒に下がらせた。
「あのダニエル様、夜会は一晩だけですから一着でいいんですよ」
「何をいう。私に選んでも良いと言っただろう。それに私が買いたいと思ったから買った」
「そんなにしてもらうと申し訳なくて、私の物になるので働いたお給金で払います」
「駄目だ。捜査の協力もしているのに、その礼と思ってくれ」
「ありがとうございます。でも・・・」
ダニエルが強引に押し切るので何も言えなくなった。でもマリーは贅沢だとは思ったが、美しくなると、その度にダニエルが褒めてくれるので嬉しくてしかたがない。
そして抱きしめてくれると胸が高鳴る。そんな喜びを味わっているのだ。美しくなりたいと思う気持ちが勝って着飾る後ろめたさは、何処かにいってしまうのた。
今までは贅沢は敵までとはいわないが、自分のためにお金を使うと罪悪感があった。それに母親に好きな物を与えたいと思うし、何よりも仕事が優先だった。
お菓子作りで必要な道具や材料、新作の研究などに使うのが当たり前になっていた。同じ年の女性たちがお洒落をしていたが、それも興味がなかった。だが今ならその気持ちが分かった。
ダニエルに好かれたいと思う欲がでてきた。どうしたら振り向いてもらえるのかと無意識に考えていたのだ。人間とは欲深いもので、今思っていることが叶うと更に、その上の欲が次々と出てくるのだ。
だからマリー自身は欲深い人間だと初めて感じていた。思いもしない自身の内面を知った気がした。恋愛感情は複雑なのだから欲があることは人間らしいと思えないのだ

