マリーは意志の強い瞳で訴えてくる。その瞳を見ないために抱きしめるしかなかった。目が合うと揺れる心はマリーの思いを叶えてしまう。
今それが最善なのかも判断できない。こんなに心が痛いのは恋が愛に変化をしいているからだろう。切ない思いが募っていくのを感じた。
「ダニエル様、お願いです」
「頼む、このまま何も言わずに抱きしめさせてくれ」
その言葉は重くマリーの心は沈んだ。自然と涙が溢れたが、ダニエルを困らせないため声を殺して泣いた。
一夜明けて昨夜の巨体の男は吸血鬼事件の犯人ではないと判明した。伯爵家の次男でマリーに一目惚れしたらしい。暴行未遂の罪で裁かれる。貴族というだけて罪を免れようと伯爵家は動いている。金でものを言わそうとしているのは、貴族のずる賢い奴らのあり方だ。
どこの国もそんな奴らが、はびこっている。その一部の貴族のせいで、正当な貴族まで悪い印象を与える。許されない行為だ。だがダニエルが裁くわけではない。裁判所が判決を下す。ダニエルの手から離れて、裁判所に委ねる事件となった。
その男の騒ぎで夜会の捜査は、怪しい人物に辿りつけなかった。犯人はまだ透明で色が付いていない。何も見えない透明な人物像に辿り着けるのだろうかとダニエルは思っていた。
その後はマリーを外して夜会の捜査をした。女性と同伴でないのでおとり捜査はできない。大きな夜会では警備と称して参加できるが、小規模な夜会では参加をすると目立って、警戒されるので断念した。そして成果は何も得ることができなかった。地道な捜査には限界が見えていた。
マリーは昼間に捜査隊の軍服を着てダニエルと行動した。夜は参加できず、焦る気持ちを押えようと菓子作りに没頭した。そこへ夜会のある日以外はダニエルが来てくれる。そして捜査の流れを話してくれたのだ。
捜査の進展が限界だとダニエルは珍しく弱音を吐いた。マリーはそれをいいことに捜査の協力をしたいと進み出た。前回の夜会でマリーは、危機的な状況に陥ったことが、ダニエルを躊躇させた。そこで一度、小さな夜会に参加して試してほしいと提案した。そして何もなかったら引き続き捜査に参加したいと言う。
「ね、お願い。必ずダニエル様のいることを確認して、離れないようにしますから」
期待で目を輝かせていた。それを見てダニエルが落ちない訳がない。迷っている様子は見えた。前回の身の前になるだろうと分かっていたが、辛い顔をして返事をした。
「分かった。本当に私の傍から離れないことを約束してくれ。私もマリーを見失わないようにする」
「ええ、分かりました。じゃ、いつから夜会に参加できますか?」
「手配をして招待状を手に入れよう」
「ありがとうございます」
マリーは前回同様、思わず抱きついた。その後は上機嫌のマリーは菓子の味見を進めてくれた。この際、不安を持とうが、約束をしたのだから、マリーを守ると今まで以上に決意した。そうすると力が抜けて、いつもの自信過剰なダニエルに戻った。そして一口食べた菓子に幸せを感じたのだった。

