ブルークレールのソワレ ー甘いお菓子と公爵様の甘い溺愛ー



マリーを抱えた男は、その部屋に誰もいないと分かると中に入ろうとした。すると後方から男の襟を掴み倒した者がいた。マリーも一緒に後方に倒れた。そして右側に仁王たちしたダニエルが見下ろしていた。ダニエルはマリーをゆっくり抱きかかえ男に言った。

「私を怒らせるとは、いい度胸をしているな」
「いや、そんなつもりはない。ただ令嬢が気分悪そうだったので」
「嘘をいうな!怪しい奴め」

気が付くとダニエルの後ろに部下たちが集まっていた。そして部下に向かって。
「こいつを取調べしろ」と怒鳴った。
「わ、私は違うんだ。何もしていない」

部下は巨体を数人で起こし連行した。何もしていないと男が連呼していたせいでダニエルの顔は厳しかった。声を掛けづらくて無言のままマリーは、お姫様抱っこされて移動していた。

廊下ですれ違う人々は、ダニエルの様子を息を呑んで見ていた。その怒った顔の凛々しさに見惚れる者もいた。しかしダニエルは誰も目に入らず、ただ正面に視線を向けた。

そして馬車を玄関に配置していたので急いで乗り込んだ。その様子を一部始終見ていた男がいた。細身の長身で華奢な体をしている。ウフェーブのかかった長い金髪は、艶やかで輝いて見えた。正装した黒い服は光沢があり華やかだ。女性の様に美しい顔立ちに冷たい微笑みを浮かべていた。
 
ダニエルは取りあえずマリーを屋敷に帰したかった。部下たちに取調べを任せて公爵邸に急いだ。馬車の中のダニエルは無言で嫌な空気を漂わせていた。マリーは唾を飲み込む音すら聞こえてくるので息苦しかった。怒られるのではないかとビクビクしていた。

 ダニエルは自分が付いていながら危ない目に合わせたと後悔していた。あの時にマリーを連れて出ていれば、こんな事にならなかった。片時も離れずに一緒にいればよかったと反省していた。

おとり捜査なので、考えてみれば、こういう場合もありえるのだ。だが現実に起こってみるとダニエルには、酷な試練に変わった。考えが甘いとしか言えないのだ。

あの時はマリーが他の男に連れられて行く姿をみつけ、怒りが溢れて体が勝手に動いていた。
他の者がいなければ、その男を酷い目に合わせていただろう。

それに気付かなければ取り返しがつかないことになっていた。そう思うだけで怒りが、また込み上げてくるのだ。この捜査は危険すぎると判断した。今後、マリーは捜査から外すことにした。

「マリー。君は、この捜査から外れてくれないか?」
「絶対に嫌です。母をこの手で救うために一緒に捜査させて下さい」
「今日、こんな事があったのだから、また起こるだろう」
「大丈夫。ダニエル様がいれば」
「私の手の届かない所で、もしもの事があったら、取り返しがつかない。マリー、必ず君の母親を助ける。約束するから大人しく屋敷に居てくれ」
「何でもするから私を邪魔者扱いしないで」

マリーの懇願する顔を見ると心が揺れる。ダニエルの気持ちは複雑で辛い。

「もうこんな事のないように気を付けるから」

そう言いながらも恐ろしかった体験に震えが止まらないでいる。しかしマリーの意志は強かった。そうでなければ、元の生活に戻れない。自らが動いて、この事件を解決しなければいけないという使命感があった。怖いなんて言っていられないと思っていたのだ。
 そんな気持ちが伝わったのか、細くか弱い体をダニエルは抱きしめた。