二人は向かい合った。ダニエルは思っていた通りの美しさに満足していた。マリーは見詰められると照れて、もじもじして下を向いた。
「着なれないから、可笑しいですか?」
「いや、美しい」
「こんなに高価なドレス。私が着てもいいんでしょうか?」
「いいに決まっている。それに私が見立てたが、思っていた以上に綺麗でよく似合っている」
ダニエルは手を差し伸べて、ダンスに誘った。マリーのダンスは上達していて、軽やかで優雅に舞っていた。リードするダニエルは満足気な表情でマリーから目が離せない。
二人だけの世界の中にいて、雰囲気に酔いしれたダニエルは、思わず優しくキスをした。マリーは驚いて突き放すと部屋から逃げるように出て行った。
ダニエルが女性から突き放されたのは、初めての経験に放心状態で立ち尽くした。今まで女性を落とせなかったことが一度も無いのだからダーゲットは手強いと実感した。逃げる者は追いたくなる。困難な状況が更に拍車をかけマリーに心を囚われている。
マリーはどうしていいか分からず、その場から逃げ出してしまった。こんなに心が高鳴るのに初恋とは知らないままだった。自分がおかしくなって、病に侵されていると勘違いしている。
この心臓を鎮めようと深呼吸したが、治まらず体が熱くなっていた。取りあえずベッドで休もうと部屋に急いで行く。ベッドに寝てシーツを頭までかぶると余計に鼓動が響く。
その上、ダニエルの顔が浮かぶ、こちらも重症らしい。お互いの思いが同じなのに、知らずにいるのは恋心をこじらせる。重症になるのは目に見えていた。夜は長く深いものだとマリーは感じた。
翌朝、ぐったりしていたマリーは不機嫌に見えた。ダニエルはマリーの機嫌を取ろうと話しかけてきた。
「マリー、大丈夫か?昨日はすまない。そんなつもりはなかった。」
その言葉に機嫌を損ねった。
「そんなつもりとは、どういう意味ですか?私は熱があり病に侵されているんです」
「熱がるのか?」
額に手を当て確かめた。マリーはその手を払い除けると動悸がするので胸を押さえた。子供の姿だったせいで痛々しく見える。
今日は夜会がある日なので、体調を考えて夜まで休むことにした。ダニエルは夜会へ行くことを中止にしょうというが、
一日でも早い解決を望んでいるので中止は考えられなかった。マリーは部屋でじっとしているとダニエルのことを考えてしまうので、自由な時間なのだと思いエリックの所へ行くことにした。

