公爵邸に帰ると部屋でダニエルはマリーを待ち構えていた。なかなか来ないので、迎えに行こうかと思って、ドレスの箱を傍に置き、立ち上がると扉が開いた。そこにはマリーが立っていた。久しぶりの大人のマリーを見ると顔がゆるむ。そしてマリーにドレスの箱を手渡した。
「明日のために用意した。夜会(ソワレ)のドレスだ」
「え、いいんですか?」
喜んで声まで明るい。箱は大きいが抱きかかえると自然と笑顔が零れる。マリーが喜んでくれることが嬉しくて、ダニエルまで笑顔が写ってしまうのだ。
「夜会はドレスアップしていくものだ。捜査のためだから気にするな」
「ありがとうございます」
「さあ、着替えてみるといい」
「今、着替えるのですか?」
「明日のダンスの最終確認のためだ。ドレスが変わると踊りにくいからな。さあ、開けてみろ」
箱を開けてマリーは驚いた。まるで宝石のようなドレスだった。水色(ブルークレール)で袖や裾の白いレースに金色の縁取りが清楚で美しい。マリーはドレスをまた抱きしめ言った。
「綺麗です。私が着てもいいんですか?」
「勿論、そのために用意したんだからな。私は外に出ている。さあ、着替えるんだ」
着替え終わるまで外で待ち構えているダニエルがいた。暫くしてマリーに呼ばれて中に入った。後ろの留め金が止められないとマリーが後ろを向いていた。
「あの、後ろの金具を留めて下さい」
ダニエルはどきっとした。余りの色っぽさで静止していては、勝手に手出しをしてしまう可能性がある。急いで後ろを向いた。今までにこれ程、マリーに色気を感じたことがない。どんな女性でも動じなかったダニエルには珍しいことだった。
「あ、1人では着替えが無理だったな。すまない。誰か呼ぼう」
「いいんです。ダニエル様が嫌でなければ、金具を留めて下さい」
「じゃぁ、留めるがじっとしていなさい」
マリーは後ろ姿で髪を右横に寄せていた。ダニエルは慣れた手つきで金具を留める。もう少しで首筋にキスをしそうになったが、それを我慢して言った。
「完了だ」
「ありがとうございます」

