マリーは嘘をつきたくなかったが、ここでマリーとマリオットが同一人物と分かれば、説明もややこしくなる。それにマリオットがマリーにとっての隠れ蓑であることがバレると、犯人にどんな仕打ちをされるか考えただけでも恐ろしい。嘘を言わざるを得ないのだ。
ダニエルの部下達は心配の半面、好奇心旺盛だった。マリオットであるマリーに部下達は2人の関係が知りたくて色々聞いてきた。その質問には普通に答えた。
「確かにマリーが忙しい時は僕が習います。でも教えてもらったことは、姉に必ず伝えています」
「マリオットが言うなら、そういうことなんだろうな」部下たちは、これ以上、詮索しても無駄だと諦めた。
「私が話すのでは、信用してもらえないようだな」
「いえ、隊長。今まで女っ気がないので、つい」
「もう、いい。さあマリオット言ってやれ、マリーは何処まで進み捜査の協力はしてくれるのかと」
「はい、隊長。マリーは既に特訓の成果があるものと言っています。いつでも夜会の準備はできているそうです」
「分かった。では明日の王主催の宮殿から、社交界デビューといこうか」
「はい、マリーに伝えます」
「他の者は警備にあたる。王には了承済みだ。同時に公爵邸の紋章を掲げている家を、全て捜査しろ。遠縁の者は地方にも広がっている。それでは、くれぐれも慎重にいくぞ」
「はい、隊長!」
敬礼と共にその声は気合が入った。それぞれの者が、犯人確保のためにと、勢いずくのだった。そして会議は終了した。
会議が終わると直ぐに公爵邸に帰ることになった。マリーは急かされて、慌てて馬車に乗った。ダニエルは機嫌がいいらしく、前に座るマリーを笑顔で見ていた。
「どうしたんですか?上機嫌ですね」
「いや、そんなことはない。マリー帰ったら私の部屋まで来てくれ」
「え、夜にですか?」
「何だ、嫌そうだな。これは捜査の一環で最後の確認だ」
「はい、分かりました」
マリーは不服そうにしていったが、ダニエルは大人のマリーに会えるのが楽しみなのだ。昼間のダンスのレッスンは小さなマリーに、裾さばきを教えるために、可愛いドレスを着せて教えた。そのマリーも可愛くて、気付くとすぐに抱っこをしてしまう。子供あつかいしないでと、マリーに怒られる。
でも今日は誂えたマリーのドレスが届いている。それを着てもらいダンスをするのが、嬉しくて仕方がなかったのだ。別に下心はないと、マリーに聞かれていないのにも関わらず、心の中で言い訳をしている。心の中はマリー一色で染められている。一途なダニエルの気持ちをマリーは知らない。

