そして話を聞いているうちに、ダニエルには、ある考えが浮かんだ。王侯貴族が開く夜会つまり舞踏会に行くことで、犯人の目星を付けられるのではないかと。
もしそれで手掛かりがあれば追及する。その繰り返しをすればいつか、事件の糸口が見つかり、犯人が暴かれるだろうと考えた。そのことをマリーに提案する。これこそがマリーの出番だと。
「犯人を捕まえるために、夜会に出席しよう」
「どういうことですか?」
「その紋章は我らの紋章だ。だからこそ、夜会に行けば会える可能性がある」
「私も行くのですか?」
「当たり前だ。先程、捜査に参加したいと言っていたではないか」
「でも私は貴族ではなく、夜会にも参加したことがないのですよ」
「大丈夫だ。私がいる」
「本当に大丈夫ですか?」
「ある程度は、準備しないといけないな」
「準備って?」
「食事のマナーや所作、それにダンスも学ばなくてはいけない」
「えー。無理、無理、無理です」
心配そうなマリーを説得するために、ダニエルは先に思いついた案を説明した。
そして夜会に出席するのは聞き込み調査を兼ねている。女性たちの集いの場所で、怪しげな男はいなかったかを調べて欲しいという。手掛かりは必ず見つかるはずだと、犯人の目的が何かを知らなければ解決はしない。マリーはダニエルの話に力強く頷いた。
「でもダニエル様、夜会の招待状はどうするのですか?」
「この私を見縊らないほしい。私に出席してほしいと山ほどの招待状が届いている」
「本当ですか?」
「嘘をいう訳がない。夜会に出席すれば分かることだ」
「はいはい、分かりました」
「本当だ。私が夜会に出れば貴婦人たちが増えると、陛下からも出席しろと言われている」
「夜会に出席したということを、この屋敷に来て、聞いたことないですよね」そう言うとマリーは疑いの目でニヤリと笑った。
「それは忙しかったし、興味がないからだ。何、笑っている。よし明日からの特訓は覚悟しろよ」
そういうと厨房から決まり悪そうに出て行った。マリーはダニエルの剝きになる可愛い一面を見て、好意的に思えてきた。時々ドキッとする場面もあり、マリー自身もダニエルのことを気になり始めたらしい。
好意があればこそ、ダニエルのことを考える。子供の姿でも優しく抱きかかえられたこと。無理を言っても捜査の参加をさせてくれたこと。所々にダニエルの優しい顔が浮かぶ。だが所詮、身分の違いがあるゆえ、叶わない恋だと思った。

