ブルークレールのソワレ ー甘いお菓子と公爵様の甘い溺愛ー



平然を装っているダニエルにマリーは言った。

「ダニエル様、今から焼き菓子を作ります。ここにいてくれますか?」
「作っている過程を見ていてもいいのか?」
「はい、どうぞ。よろしければ、味見をして下さい」
「いいのか?」
「勿論です」

マリーは、きらきらとした表情で笑うのだった。ダニエルにはそう見えた。
その笑顔は罪づくりだとダニエルは思った。そんなマリーの様子を見ながら、今までのことを思い返した。マリオットがマリーなのだから、マリオットを愛しく思って当たり前で、自分自身がおかしくなっていなかったのだ。男に対して恋愛感情があった訳でないのでほっとしている。

 それにしてもマリーが、黒装束の男に狙われたことが、心配で仕方がない。同じような情報を提供してきた娘たちは、1度しか狙われていない。リスクがあるのに、2度も誘拐しようと試みるのは、目的があるはずだ。
 
裏にいる人物は、何を考えているのだろうか。ダニエルは犯人を自分に置き換えるなら、この美しさに惑わされるだろうと思った。ましてや性格を知ると手放したくないと思うはず、今の自分のような態度になる。いつ誘拐されるか分からないと考えると、何処にも出さずに、公爵邸に閉じ込めておきたいと思うのだった。

 マリーを見ていると、そんなことをすれば嫌われると分かっている。マリーは自立していることで、意思もしっかり持っている。その自由を奪うのは、羽ばたく鳥の羽を折ってしまうのと同じだ。内面からも輝いて見えるのは、自由に羽ばたくからこそ美しい。マリーを見詰めながら物思いにふけっていた。

「どうかしました?」
「いや、なにも」
「もう、できましたよ。はい、味見です」