「あのー、ダニエル様、お願いがあって」
頭を抱えていたダニエルは勢いよく顔を上げて言った。
「何だ。私に協力できることがあるのか?」
「協力というか、あの、もっと事件の調査に参加したいんです」
「それは駄目だ。危険すぎる。貴女に何かあったら後悔しきれない」
「母を助けたいんです。それに捜査上、女性が必要な時があると思います」
「だからといって、貴女を危険にさらすたことはできない」
「じゃぁ、私はここにいる必要がないわ。他の方法で母を助けます」
言い終わると、マリーは出て行こうと扉に向かった。ダニエルは慌てて、腕を掴み止めた。ダニエルも惚れた弱みがある。この場からマリーがいなくなるとは、考えられない。
「分かった。そんなに焦るな。少し時間をくれ。悪いようにはしない」
「じゃぁ、捜査に参加できるんですね」
ダニエルは頷いた。マリーは背伸びをして、ダニエルの首に手を回し抱きついた。好きになった弱みで、言うことを聞かざるを得ないダニエルだった。マリーを手放したくない気持ちが勝ったのだ。抱きついてきたマリーの背中を、思いを込めて強く抱きしめた。
マリーは知らないうちに、男心を左右させる。ダニエルにとって、あざとかわいい存在になる。悪く言えば計算高い。だが無意識のうちにするのだから、本人には悪気がない。でも、それはよけいにタチが悪いのだ。男心を突き放し、また引き寄せる。この駆け引きがあるから余計に魅かれるのだ。ダニエルとエリックは、マリーのその沼にはまってしまった。
「じゃあ、ダニエル様のために、とっておきのお菓子を作らないと」
ダニエルは目を覆うように片手を当て、天上を仰いだ。マリーの美しさにやられたらしい。いちいち反応する自分に驚いていた。これまでに感じたことがない心の動きは、心地良くもあり、やるせない気持ちにもなる。これが本当の恋心を感じているのだろうか。そう思っていたが、デレデレしてはいけないと感情を押しつぶした。

