「どうした。そんなに驚いたか?」
「だって、誰もいないと思って入ったら、ダニエル様がいたので」
「すまない。聞きたいことがあって来た」
「どういったご用件ですか?」
「例の事件の捜査で、浮かび上がった黒装束の男の件だ。実はエリックから聞いたが、君も誘拐されかけたと」
そう言うとマリーを椅子に座らせて、テーブルを挟んで向き合った。
マリーは考えた。今、ダニエルにそのことを話して大丈夫なのかと。
ダニエルを疑っていたが、王に仕える近衛隊だ。この事件を捜査しているので、母親とマリーを襲った犯人は他にいる。やっと母親を助けられるかもしれない。
それに頭のいいエリックがダニエルだと解決できると、マリーのことを話したに違いないと。
マリーは戸惑いながらも思い切って、話し始めた。それは店に遺体で見つかった女性が逃げ込んで来たこと、母親と一緒に拉致されたこと、二人を助けるために逃げったこと。そして捜索願を出したことなどを詳しく話した。
泣かないように話すつもりが、母親の話になると自然と涙が流れて止まらなくなった。もし母親の命も危ういとなれば、想像しただけで恐ろしく悲し過ぎる。そんな思いが積もって止めどない涙が流れるのだった。
ダニエルはその心情を思うと、もう聞くのは終えようと考えた。そしてマリーの横に行き、膝をついて抱きしめた。マリーは座ったままダニエルの胸に顔を埋めた。背中をトントンと優しく叩く感触は、安らぎを与えられ心が落ち着いた。
暫くしてマリーはマリオットのことを話そうと決心していた。抱き合っていた腕から離れダニエルに向かって告白する決意をした。マリーの話を聞いてたダニエルは、抱きしめてくれた温もりが犯人でないと考えた。
それは最後まで疑っていたが、聞いている時の表情は優しさに溢れていたのだ。それにマリオットとして捜査協力するよりもマリーとして事件に関わりたいのだ。そう思いゆっくりと秘密を話しだした。
「ダニエル様、お話があります」
ダニエルは向いに座りなおし、真剣な面持ちでマリーを見た。
「何でも言ってくれ。私にできることがあれば、何でも協力する」
「実はマリオットは私自身なの」
「何、どういうことだ?」

