ブルークレールのソワレ ー甘いお菓子と公爵様の甘い溺愛ー



 マリーは急いでエリックの家に来たのに、着替えが間に合わず、大人の姿になった。それが腹立たしくて仕方がない。それに服を駄目にしてしまったことで、もったいないという嫌悪感でがっくりと力が抜けた。

「マリー、大丈夫か?」
「大丈夫じゃあない。エリックに貰った服を駄目にしちゃった」
「そんな物いくらでもある。実家にいけば山ほど置いている」

エリックの母親はいまだに捨てずに幼い時の服を置いている。1人息子はそれ程、大事にされていた。親の期待も優秀なだけ大きい。優秀過ぎて何か錯覚しているエリックの性格は悪い。

おっとりと育っているが、時々俺様系の顔を覗かせる。それなのにマリーには一途で純情なところがある。だからマリーのためならと、実家から服を山ほど持って来ている。そんなところは憎めないのだ。

「ほら、マリー。こんな服もあるぞ。持って行けよ」
着替え終わったマリーは扉を開けて、憎めない笑顔を向ける能天気なエリックに、思わず笑ってしまった。

「ありがとう。エリックに良くしてもらっているのに、ごめんね」
「いいんだ。こっちこそ大人のマリーから目が離せないで、変身している姿を見て、ごめん」
「それは嫌だ。今度から見ないで」
「うん、約束はできないけど、努力するよ」
「絶対、努力して見ないでね」
「う、うん」

頼りない返事は年上なのに、子供みたいだと思っていた。これもエリックらしい一面だ。マイペースで純情で、そしていつものとぼけたエリックは健在のようだ。

「じゃぁ、もう行くね」
「何でだよ。マリー、もう少しいろよ。お茶でも入れようか?それとも食事して行くか?」
「いらない。急いで帰らないと公爵邸に、入れなくなったら困るから」
「そうか、じゃあ、送っていくよ」
「いいわ。服ありがとう」

マリーは急いで公爵邸へと向かった。名残惜しそうにエリックは扉から、遠くなるマリーの姿を目で追っていた。見えなくなっても立ちつくしていた。