ダニエルはマリーを抱きかかえて馬車まで行き乗せた。
マリーはこれ以上いっても無理だと諦めた。渋々馬車に乗ってダニエルに手を振り帰って行った。
公爵邸に着くとダニエルの帰りを玄関近くの階段で待った。なかなか帰ってこない。飼い主を待つ子猫のような気分になった。そして今日あったことを考えた。宮殿にいったこと、初めて体験した会議、王に会ったこと。めまぐるしく終わる1日は子供の体では疲れきっていた。階段の一段目に腰を下ろしていたが、自然と横たわって熟睡していた。
ダニエルは、明るいうちに帰ってきた。子供の姿のマリーが、階段の一段目に横たわって寝ているのをみつける。
「待っていたのか、こんな所で寝ては風邪をひくぞ」
頭を撫ぜて抱き上げた。そして優しく額にキスをした。金髪の髪はさらさらで柔らかく感じた。その姿が可愛すぎて抱きしめてしまった。
「私は何を考えているのだろう」
頭を振って愛しく思ったことを打ち消した。だが腕の中のマリーは、無防備で体を預けてくる。無垢で壊れてしまいそうなところが、たまらなく可愛い。
「私はどうかしている。大丈夫か」
自分に問いかけたが、答えが出る訳がない。子供をこのままおいてはいけない。部屋で寝かせてあげようと地下まで行った。部屋に入るとベッドに優しく寝かせた。傍に腰を下ろし頬を撫でた。
(姉のマリーはいないのか。きっと厨房かも知れない。こんな気持ちでは会えない)と心の中で思っていた。そして起こさないようにゆっくり部屋を出た。
マリーは寝返りをうつと目を覚ました。自分の姿を確認した。まだ子供のままだとほっとした。夢の中でダニエルが額にキスをした感覚があった。
「私ったら、ダニエル様を意識している。どうしょう・・・。もう、そんなこと考えている暇ないわ。着替えなくては、早くしないと大人になっちゃう」
そう言うとタンスからドレスを出してきた。大人になって子供服を破ってはいけないと焦って着替えていた。
先程の夢のことを考える間もなく眠気が襲ってくるのだ。どうして自室に帰っていたか、疑問にすら思わず。
やがて暗くなったのだろう。マリーは大人の姿になった。ベッドのシーツに包まると疲れが考える間を与えず、夢の中に静かに滑り込んでいた。

