その後、会議が始まった。マリーはダニエルの横にいるように言われた。王が参加するのだから慣れないマリーは、不安になると考えたからだ。それに子供は目立つから隠すようにダニエルの後ろに座らせた。
マリーはダニエルの計らいで、事件協力ができて、この会議に参加させてもらえたことが嬉しかった。母親の事件が捜査されることを望んでいたからだ。母親に会える日が早まることを願わずにはいられなかった。早く始まらないかと心が先走っていた。でも体験したことが無い場所なので、始まりを静かに待つしかない。
間もなく会議室に王が入ってきた。全員立ち上がり礼をした。マリーも慌ててぎこちない礼をした。王が前方の席に座ると皆が着席する。そして王の声が響いた。
「これより、この事件の捜査報告会議を始める。遺体の調査はどうなった?」
ダニエルが慣れた様子で話しだした。
「はい、今日、午後1時15分に遺体が発見されました。それ以前に遺棄された模様です。その時間帯より早くに、怪しい黒装束の男2人組が見かけられています。それから遺体は、この街の者ではないことです」
「明日からの捜査は広範囲になる。隣接されている街を隈なく探せ」
王の言葉に一同が返事をした。
「承知しました」
そして王は法医学医たちに目をやりいった。
「検視の結果の報告を」
エリックが堂々とした口ぶりで話し始めた。
「はい、死因は跡形を残さず血を抜いた。出血性ショックであると断定しました。
切り口を見て、これ程の腕を持っているのは、解剖やメスの扱いになれた者だとおもわれます。詳しくは手元の資料に記載しています」
「苦しんだだろうに」
「はい、その通りです」
その報告を聞いたマリーは真っ青になった。あの時の若い女性を助けようとしていたのに、すぐに遺体となって発見された。申し訳ない気持ちと母親が心配で不安に押しつぶされそうになった。その時、王の怒りを感じる声がした。
「なんと惨いことを、血を抜き取るとは・・・。この事件を吸血鬼事件とする。ダニエル・ド・ルーヴァンノワ隊長、あとは頼んだ」
「承知しました、陛下」
ダニエルは、若い女性の行方不明事件と何だかの関係があると考えていた。この殺人事件を捜査することで二つの事件がひとつに繋がり解決へと向かうだろうと思っている。
先ずは各街に捜索願を出されている若い女性達の確認を取る。死体の身元も同時進行で捜査を進める。そして犯人の手掛かりを探る。そのための捜査計画を部下達と綿密にたて、各自に細かい指示をした。王は最後までその様子を見守った。そしてまとめられた報告書を確認して会議を終了させた。最後に王がひとこと言った。
「それでは事件解決に向かい、明日からの捜査は慎重に進めよ」
「承知しました、陛下!」
全員が声を揃えて返事をした。そして解散し各自が明日からの捜査の準備を始めた。マリーはダニエルに着いて行こうとした。だが止められた。
「マリオット、遅くなってはいけない。姉さんが心配する。今日はもう帰るんだ。」
「嫌だ。僕も手伝うよ」
「子供には無理だ。今度できることを探しておく。その時、手伝ってくれ」
「捜査協力していいって、言っただろう」
「焦るな。これからは色々仕事が出てくる。じゃ、馬車で送らせる」
「嫌だ」
「いい子だから、言うことを聞け」

