エリックの腕の中で、マリーの顔色が少し戻っていた。か細い声で言った。
「エリック、もう大丈夫、降ろして」
「でも」
「いいから降ろして」
マリーをゆっくりと降ろした。そこへ先程、捜査隊を呼びに行った馭者が近衛兵を連れて戻ってきた。
「ダニエル様、捜査隊を呼んできました」
「ご苦労だった」
ダニエルは何事もなかったような様子で、捜査隊に遺体の移動と周辺の捜査を指示した。
二十人の捜査隊の半数は、手早く遺体の移動をした。残りの者は周辺に飛び回って捜査を始めた。
ダニエルはエリックに検死を依頼して、宮殿の近衛兵特別捜査隊の遺体安置所へ向かうように言った。
「さあ、検死をしてもらおう。頼んだぞ」
「僕も連れて行って」
「マリオット、子供の来る所ではない」
「でも僕も捜査に協力していいんだよね」
「そうだが」
ダニエルの歯切れの悪い言葉を聞いて、エリックに返答を求めて懇願する表情で言った。
「ねえ、エリック」
「そうだな。マリオットが大丈夫だったら」
「僕は元気さ。だから行く」
「私は反対だが・・・。エリックとの約束だからな、仕方がない。だがもし体調が悪くなったら休んでもらうからな」
「うん、大丈夫だよ」
エリックに協力して欲しいので、仕方なくマリーの参加を許可していたが、ダニエルは心配で仕方がないのだった。
マリーとエリックを連れて再度、宮殿に向かった。馬車の中ではマリーがエリックの腕に頭を寄せて、もたれかかっているのが気にくわなかった。不機嫌な顔でエリックを睨みつけていた。
逆にエリックは勝ち誇った表情でダニエルを挑発していた。この差は幼馴染みの特権だ。ダニエルよりエリック自身に心を許しているのだ。しかもマリオットはマリーだと知っている。二人だけの秘密だと思うとエリックは無意識に含み笑いをしていた。
その様子にダニエルは険しい顔になった。そんな空間で息苦しい思いをしていたのはマリーだった。この不穏な空気はどうしてなのか、疑問に思いつつ早く宮殿に着くことを願った。

