ブルークレールのソワレ ー甘いお菓子と公爵様の甘い溺愛ー




暫く考えてみると攫われた馬車の中で、一緒にいた女性だと思い出した。あの時と同じドレスを着ていた。マリーは嫌な予感がして気分が悪くなった。あらぬ心配ばかりが頭の中を過るのだ。母親がこの世から、いなくなったらと考えていた。すると心に重たく暗いものが立ち込めてくるのだ。

 一方ダニエルはエリックをひとめ見ただけで、血を抜き取られていると言う観察力に、抜きんでた優秀な力を持っていると感じた。色々な捜査を経験してきた感が働く。ダニエルも優秀な隊長であるからこそ分かることだった。これは大掛かりな調査になると覚悟した。
 
そう思うと子供を仲間に入れると足手纏いになるし、危険すぎるのではないかと心配になってマリーを見た。顔面蒼白になった様子は、より不安の要素が大きくなるのだ。ダニエルはマリーに向かって言った。

「どうした?大丈夫か?」
「大丈夫だよ・・・」

弱々しい声に更なる心配が増すのだった。するとエリックがマリーを抱きかかえた。ぐったりとするマリーが体を預ける。それを見るとダニエルは沸々と怒りが湧いてきた。何に怒りを感じているか分からなかった。エリックからマリーを奪い抱き寄せようとした。すると、エリックが強く抱きしめて離さないのだ。

「マリオットは私が連れ帰ろう」
「いや、僕の家は、すぐそこですので、休ませます」
「マリオットは私の家の使用人だ。私が連れ帰って、自分の部屋で休ませるのがいい」
「いいえ、僕の家で」

二人はマリーを取り合い。目には怒りの表情が浮かび、お互いにむきになっていた。抱きかかえたままのエリックに威圧的に接していた。ダニエルはふっと思った。

(これは嫉妬か?まさか私が嫉妬なんて、しかも少年に。その気があるのだろうか?)

冷静になって腕組みをして考えた。それから、右手の人差し指と中指を立てこめかみに、親指を頬に当て、他の指は曲げた。ダニエルの考える癖だった。まるで難問を解くかのように難しい表情で考え込んだ。
 その隙にエリックはマリーを抱えたまま家に帰ろうとした。